遺言書は残していたが遺産分割協議をしたケース
状況
今回のケースは兄弟相続で、長女、長男、次男の3人兄弟でした。
長女が亡くなり、次男に土地建物の不動産を相続させる内容の自筆証書遺言を残していましたが、不動産の所在・地番・家屋番号ともに誤記があり、相続させる不動産が特定出来ていない状態でした。
次男様からの相談でしたが、長男様は遺言の存在を知らないらしく、この遺言で不動産の名義変更手続きをすることは可能でしょうかというご相談でした。
司法書士の提案&お手伝い
遺言を拝見させていただいたところ、遺言の要式には適合しておりました。
しかし、遺言書の内容に誤記があるので、そこを考えていかなければなりません。
遺言内容に不明確な部分がある場合には、遺言書全体の記載や遺言者が置かれていた状況などを総合的に判断して解釈されます。
遺言者の本当の意思をできるだけ実現すべく、その真意を理解して遺言書を読み解くべき、とするような判例もあります。
つまり、不動産の記載に誤記があるような場合でも、遺言書の真意としては、対象の不動産であることを書面上推定させることができれば、登記手続きをすることも可能だと思います。
ただし、このあたりの運用は管轄の法務局によって必要な書面が違ったり、そもそも受け付けてくれなかったりする場合もありますので、まずは、遺言書が使えるかどうか、管轄の法務局と打ち合わせするのが先決になると思います。
また自筆証書遺言なので、名義変更手続きを進めていくためには、家庭裁判所で検認手続きをしなくてはなりません。
遺言書が手続きに使えない場合は、長男様のご協力をいただいて、遺産分割協議での手続きを進めていく必要がございます。
結果
遺言者が所有している不動産と、遺言書に記載した不動産に同一性があるかどうかが登記可能どうかの境目になりますので、公的な書類で補完するために課税明細書や納付通知書などを整えます。
今回のケースでは、誤記があった所在・地番はそもそも不動産として存在していないことや、遺言書作成年月日において、遺言者が外に不動産を所有していなかったことを納税証明書などで証明して、法務局に照会しました。
その結果、名義変更の手続きをするためには遺言書の他に、相続人全員による上申書が必要になるとの回答でした。
上申書には相続人全員の署名と実印で捺印が必要となるため、長男様のご協力が必要不可欠になります。
長男様に協力いただくのであれば、家庭裁判所の検認が必要となる遺言書での手続きよりも、遺産分割協議で名義変更した方が、手間がかからないことをご依頼者に伝えさせていただきました。
その後、長男様に今回の経緯を説明したところ、あっさりとご協力いただけることになりましたので、次男様が不動産を取得する遺産分割協議にて不動産の名義変更手続きをすることができました。
今回のケースでは、長男様にご協力をいただけたので手続きができましたが、仲が悪く協力いただけない場合はせっかく遺言書を残したのに亡くなった方の思いを実現することができなくなってしまいます。
また曖昧な遺言書を残すことによって相続トラブルを誘発することにもなるので、遺言書を作成する場合は是非とも私どものような専門家にご相談いただけたらと思います!
また、まとめサイト等への無断引用を厳禁いたします。
この記事を担当した司法書士
司法書士法人クオーレ
代表
鈴田 祐三
- 保有資格
司法書士・行政書士・宅地建物取引士
- 専門分野
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相続・遺言・生前対策・不動産売買
- 経歴
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立命館大卒。平成13年司法書士試験合格。平成19年に鈴田司法書 士事務所を開設。平成27年に司法書士法人クオーレを立ち上げ、 代表を務める。事務所開設以来、多数の相続の相談を受けており累 計相談件数1,400件以上の実績から相談者からの信頼も厚い。