相続人の中に未成年者がいる場合の相続手続き
状況
主人様が亡くなり、奥様が相続手続きのご相談にお見えになりました。
遺産として、不動産と預貯金があり、法定相続人は相談者である奥様と10歳のお子様一人でした。
当事務所の提案と解決
相続人の中に未成年者がいる場合には、通常とは異なる手続きが必要となります。
相続が発生すれば、遺産の分配を決めるため「遺産分割協議」を行うことになります。
しかしながら、未成年者は一般的に知識・経験・判断能力が未熟と思われることから、法律上、遺産分割協議に加わることができないことになっています。
未成年者が相続人となった場合には、法定代理人である親権者が遺産分割協議に参加することになるのですが、今回のようなケースでは、親権者である母親が未成年者の法定代理人として遺産分割協議に参加することもできません。
それは、母子ともに相続人である場合、子どもの取得分を増やせば親自身の取得分が減り、子どもの取得分を減らすことによって親の取得分を増やせます。
このような利害が衝突している状態を「利益相反」といいます。
利害が衝突した状態で母親が未成年者の代理してしまうと、恣意的に親が自分の分だけを増やし未成年者の利益を害する可能性があります。
そこで、利益相反が発生している場合には、母親が未成年者の代理人となって遺産分割を進めることができません。
余談ではありますが、両親が離婚しており母親が相続人ではない場合には利益相反は発生していないため、母親は未成年者の法定代理人として遺産分割協議に参加することができます。
それでは、母子ともに相続人の場合に遺産分割協議を進めるためには、どうしたらいいのでしょうか。
親権者が未成年者の代理人になれない場合は、家庭裁判所に「特別代理人」の選任申し立てをする必要があります。
特別代理人選任の申立方法は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
申立てをすることができる人は、親権者と利害関係人です。
申立てに必要な費用は、未成年者1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手になります。
申立ての際には、下記の書類が必要となります。
・特別代理人選任申立書
・未成年者の戸籍謄本
・親権者(または未成年後見人)の戸籍謄本
・特別代理人候補者の住民票か戸籍の附票
・遺産分割協議書案
・(利害関係人が申し立てる場合)利害関係を示す資料
これらを準備・作成して家庭裁判所に提出すれば、裁判所で審判をして特別代理人を選任してもらうことができます。
申立書に記載する特別代理人の候補者は、利益相反の関係にない成年者であれば誰でもなることができます。
通常は利害関係を持たない親族から選ぶことが多いです。
今回のケースでも未成年者の祖母を候補者としました。
特別代理人を選任申立て時に、遺産分割協議書案をつけて提出する必要があります。
その内容については、未成年の利益を損なう内容では家庭裁判所に認めてもらえない可能性があります。
原則としては、未成年者の利益が損なわれないように、法定相続分以上の遺産を未成年者に分ける内容の遺産分割協議が求められます。
とはいえ、今後、親権者が未成年者を養育していくために法定相続分を未成年者に分けることが必ずしも最善とは限りません。
そこで、法定相続分を満たさなくとも、未成年者にとって不利益ではないの理由を家庭裁判所に明示することで認められるケースもあります
今回のケースでも、未成年者が成年に達するまで、責任をもって養育していくために必要であること等を理由に、未成年者の遺産の分配は法定相続分に満たない内容でしたが認めてもらうことができました。
理由につきまして、ケースバイケースとなりますので、類似のケースでお困りの方は専門家にご相談ください。
その後、遺産分割協議書に母親と特別代理人が署名押印し、その遺産分割協議書を使って無事不動産の名義変更や預貯金の解約を進めていくことができました。
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この記事を担当した司法書士
司法書士法人クオーレ
代表
鈴田 祐三
- 保有資格
司法書士・行政書士・宅地建物取引士
- 専門分野
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相続・遺言・生前対策・不動産売買
- 経歴
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立命館大卒。平成13年司法書士試験合格。平成19年に鈴田司法書 士事務所を開設。平成27年に司法書士法人クオーレを立ち上げ、 代表を務める。事務所開設以来、多数の相続の相談を受けており累 計相談件数1,400件以上の実績から相談者からの信頼も厚い。